活躍するOB/OG１　身近なカメラの内側に潜む「計算」を極める

Q0：簡単に自己紹介をお願いします。

株式会社モルフォ CTO室 シニアリサーチャーの小林です。私は2011年に博士課程修了後モルフォに入社し、現在ではPhotoSolidやHDRなど、静止画向けの画像処理技術の開発責任者を務めています。

Q1：現在の仕事について教えてください。

モルフォは、スマートフォンをはじめとした様々なデバイス向けの画像処理・画像認識技術を開発し、ライセンスしている企業です。 私の所属しているCTO室は、製品の根幹となるアルゴリズムを研究開発している社長直下の部署です。 数多くある製品の中で、私はノイズ除去やHDR(ハイダイナミックレンジ)合成など、静止画向け製品の開発に関するマネジメントを担当しています。 スマートフォンのカメラは、デジタル一眼レフカメラと比べるとレンズやセンサーのサイズが小さいため、基本的な画質は劣ります。 一方で、スマートフォンは豊富な計算資源を持つので、計算によって画質を向上させる技術が日々研究され実用化されています。 計算によって画像を生成することから、この分野の技術はComputational Photographyと呼ばれています。 近年のスマートフォンはカメラ性能が前面に大きくアピールされることが多いですが、その裏ではComputational Photographyの技術が画質を支えているのです。 特に最近のスマートフォンのカメラ機能は極めて高度化されてきているため、作った製品をただ売るだけでは、製品の性能を最大限に引き出せなかったり、他社の端末との差別化が難しかったりします。 そのため、時には企画の段階からお客様と密にコミュニケーションを取って、方針を開発チームに反映することもあります。 一般的な研究開発職は、研究所などの閉じた環境で研究開発を行うようなイメージがあるかもしれませんが、この点では研究開発職のイメージと異なるかもしれません。

Q2：横国大での学びや経験は、いまの仕事にどう活きていますか？

学部生や院生時代には主に物理を学んでいたため、画像処理はおろかプログラミング自体も重点的に学んでいたわけではありません。 実際のところ、私の持っているプログラミングスキルのほぼ全ては、入社後の経験で培ったものです。 しかし、画像処理技術や画像認識技術の根幹、すなわちアルゴリズムの背景には、大学で学んだ解析学や線形代数などの数学の他、物理的な現象が隠れています。 ここ数年の間に急成長を遂げたAI技術も、開発する上では数学的な知識が必須と言えます。 大学の授業で聞いていた時には実感を伴っていませんでしたが、そこで学んだことは最先端のテクノロジーに携わる上で実用的であると今では実感しています。 また、大学での研究活動と会社での研究開発の共通点として、実現できるか未知な問題に取り組んでいるということが挙げられます。 これは一エンジニアとして研究開発に携わっている時も、マネージャーとしてチームを率いている時も、共通して取り組むべき課題です。 問題解決にあたって重要な点として、どこに問題があるのかを見つける問題発見能力、今起こっている現象を正しく把握する解析能力、そして問題に対してどのように対処すべきかを考える対応計画能力が必要です。 大学での研究活動を通じて養われた、未知の問題に取り組むためのスキルが、今私が仕事に携わる上での財産となっています。

Q3：今後の目標について教えてください。

10年前、まだスマートフォンが普及を始めたばかりの頃には、スマートフォンのカメラの画質はデジタルカメラには遠く及ばないものでした。 しかし今では、スマートフォンがあればデジタルカメラはいらないという人は多いのではないでしょうか 。一方で、プロのカメラマンが使うようなデジタル一眼レフカメラと比較すると、スマートフォンにはまだ改善の余地は大きいと考えています。 画像処理技術は、まさに日進月歩の世界です。 スマートフォンがデジタル一眼レフカメラを超える日も夢ではないかもしれません。 スマートフォンに限らず、誰もが手軽に感じたままの美しい画像を残したり、あるいは目に見える以上に美しい画像を生み出せるような技術を開発し、世界中の人々に使ってもらうことが私の目標です。

Q4：在校生やこれから横国大を目指す若い学生にアドバイスお願いします。

受験勉強にせよ、大学での勉強にせよ、何かを学ぶ際には「何のためにそれを学ぶのか」という目的をしっかりと持って取り組むことが、学びをより成熟させることに繋がると思います。 好きこそものの上手なれ、という諺がありますが、興味を持つことは学習に対する大きな原動力となります。 私の場合は物理への漠然とした興味から始まり、紆余曲折を経て画像処理エンジニアの道を歩んできましたが、どの時点でも自分の興味を学習や仕事に反映してきたような気がします。 これを読んでいるみなさんにも、自分の興味の持てるものを見つけ、それを突き詰めて行った先に充実したキャンパスライフやビジネスライフが待っていることを願っています。

【注】所属、肩書き等はインタビュー当時のものです。